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大工×設計士、しごとのはなし。

SPECIAL

座談会

大工×設計士、しごとのはなし。
大工×設計士、しごとのはなし。

石牧建築は2018年に『しましま設計室』を開設しました。きっかけは関西から新たに設計スタッフ(西久保)を迎え入れたこと。『しましま設計室』はそれまで西久保が使っていた屋号です。設計と大工の仕事。それぞれの立場から“石牧建築”と“しましま設計室”の関係を語ります。

* * *

石牧)
僕たちみたいに大工工務店と設計事務所の両方を持ってる、そういう会社って稀なんだよね。

西久保)
あ、そうですか?

石牧)
稀じゃないですか?工務店に設計部があるみたいなのはあるかもしれないけど、どちらかというとそれよりもうちは設計が単独でもある。大阪での仕事もあるし、店舗の仕事もしたり、設計としてね。工務店としても、僕たちは大工労務も自社で行うし、プレカットの工場にも出さないし、そういったところはちょっと変わってるでしょ。僕はよそを知らないから比較は難しいんだけど。

西久保)
石牧さんが「しましま設計室ごと石牧建築入っておいで」って話を提案してくれたとき、私はよく分かってなかった。それは石牧建築の設計部になるのと何が違うんだろうって言う風に思っていて、でも今、3年目になっていろんなことが動き出してきて、最近特に『しましま設計室』っていうものが石牧建築と別にあるっていうことのメリットとか意味みたいなのが、なんか見えてくるようになりました。それは、例えば浜松以外での設計の仕事をもらいやすかったり、または相手の方にとっても頼みやすかったりとか、まだこれからの話だけども、設計だけの仕事にチャレンジしていくうえでも『石牧建築設計部』ではなくて『しましま設計室』っていうのがある方が自分たちのやりたいことに近づきやすいのかなぁって。

石牧)
そうだよね。じゃあ、しましま設計室として別のままでもよかった、浜松まで来て石牧建築と一緒にやらなくても良かったんじゃないか?ということについては、どう?実際に来てみて。

西久保)
やっぱり作る人が同じチームの中にいるっていうのが、設計する側としてはすごく安心感もあるし、いろんなことにチャレンジしやすいと思う。

石牧)
モックアップ一個作ってみるっていってもパッとできるもんね。それがね、社外だと「じゃ、そのモックアップの製作費は誰が持つんですか?」とか。

西久保)
そうそうそう!結局費用のことが常について回るから。

石牧)
設計事務所が大変なところはそこかもしれないね。

西久保)
ましてや大工さんと直接話をするんじゃなくて、工務店さんていうか監督さんであったりとか、工務店社長さんであったりとか、作る人、動かす手は別にあって、それを束ねる人とお話をしなくちゃいけないっていうのは、すごく伝わりにくいっていうか、、、考える人と作る人が話をして「それいいね!」っていう風にワァーっと盛り上がって、すごい熱を持ってものづくりに取り組むっていうことが、結局楽しいって思う瞬間だと思う。

石牧)
まさに!まさにそう!

西久保)
それが石牧さんと直にしゃべって打ち合わせをしたりしてると、そういう風に爆発するっていうか、掛け合いの化学反応が起こることっていうのが、すごいたくさんあったから、私は石牧建築に入ろうって思ったし、そういうのは間に誰かが入ったとき、その間に入る監督さんとかが同じように熱を持ってくれて、それを職人さんに熱のまま伝えてくれる人だったら、それも楽しいと思えるだろうけれども、ちょっと薄まったり、ちょっと利益とかが絡んだりとか、、、



石牧)
例えば空間を作る設計士さんが全体を見て、こういう空間にしたいなとか、こういう風に見せたいなっていうのがあったときに、大工の仕事っていうのは納まりを決めていくこと。僕たちっていうのは、一個一個実際にモノをね、ひとつひとつ手に取って仕事をしてる。意匠の部分に対して、ディテールを捉えてく。設計士さんていうのは一個一個のディテールよりも俯瞰的にものを見てる。そこの掛け合いなんだと思う。設計士さんもディテールを見ていないわけじゃないし、僕たちも全体を一応見てはいる。その間をお互い埋め合っていくから化学反応が起きる、っていうのが、ものづくりの楽しいところじゃないかな。僕たちは楽しいし、出来上がるもののクオリティが少しずつ上がっていく。その過程も一緒に共有していけるっていうのは、作り手との近さっていうのがすごく大きいかなっていうのは思うね。

西久保)
結局、損得みたいなのっていうか、どっちが被るかみたいな話が常に付きまとうわけですよね、設計事務所でやってるときっていうのは。で、設計事務所は基本的に被れないんですよ。そんなに経費をもらっているわけではないし。そこがなんかやっぱりずるいところでもあれば、弱いところでもあるし。昔だったら「先生、先生」でそこはねじ伏せちゃってる人もいたくさんいたけれども、もう今私たちの世代ではそこまで立場強くないから。

石牧)
そうだね。施工側の方が今は立場が強くなってるところあるよね。

西久保)
ってなると、ただただ遠慮して、これをしたら手間がかかるんじゃないかって思いながら設計をしなくちゃいけないっていうのが、実際独立したてぐらいのときは割と感じてた。だから石牧さんにも「これしたら大変ですか?」とか「これって手間ですか?」ってよく聞いてたと思うけど、それ言うたびに石牧さんは「そんなことどうでもいいから、西久保が一番かっこいいと思うものをまず言え!」というふうに言ってきてくれたじゃないですか。あれはすごい新鮮というか、え?そんなんで本当に大丈夫なの?そしたら、言うよ!言っちゃうよ!みたいな感じで思って(笑)

石牧)
そこの部分もね。ひとつひとつ捉えてったら費用ってかかってくるのかもしれないけど、全体を捉えていくなかで、基本的に僕たちは自分で作れるし、自分たちで素材から調達していくから、最初からやりたいことが分かったらコントロールできることが大きいんだよね。だから、初めに分かってたらいいんだけど、突然「今、これ!」って言われると、製品を買ってこないといけなくなったりもして大変なのよ。最初から言ってくれたらマグロ一本買っとくけど「今刺身が欲しい!」って言い方されたら切り身を買ってくるしかないよ、みたいな話になっちゃうから。

西久保)
だから、ここに来てすごい楽なのは、本当にプレゼンする前の、まだどこにも出していない自分の頭の中にある段階から相談もできるし「こういうことをしたいと思うんだけど、どう思う?」っていう話もできるじゃないですか。で、さっき言った“損得”、どっちが被るかみたいなのも、それもなくって。だって、どっちも同じ母体だから、損するときはお互い覚悟を決めて、それでもいいものができるからやろう!って話だし、じゃあ、私たちばかりが得してお客さん損するのか?っていうと、そういうことは起こってない。いいものを作りたいから。

石牧)
ひとつの会社で限られた予算のなかでものを作っていくから、その分配っていうか、どこで受け渡したら効率がいいかってことを考えるでしょ。費用ってことは時間でもあるからね。設計側がすごい持ちすぎちゃって「図面ものすごい書きました」って渡されても、施工側は待ちに待ってやっと受け取って「僕たちが使える時間はこれしかない!?」ってことだと、いいものは作れない。設計側はもっと図面書きたいから時間ください、施工側からはもっと細かいいい仕事をしたいから時間ください、ってお互いが時間をゆったり使って好きなように作ったりしたら、お客さんには理解してもらえないし、それが果たしていいものになるかっていうと、難しいよね。制限がある方がいいものができるかもしれない。



西久保)
うん。それはそうかもしれない。一人でやってた頃を考えたら、今のスピードっていうのは絶対無理って思う。

石牧)
徒歩か電車かみたいな(笑)

西久保)
だと思う。ま、やればできる、とも。別にクオリティが下がってるとは思わないし。

石牧)
考える時間が多くて、図面書く時間が多ければクオリティの高いものになるかって言ったら、そうでもないかもしれないしね。まぁ、チームで動けることが僕たちにとってはいい結果になってるのかな。ここ(浜松)に来てチームで仕事をすることで大きく考え方が変わったみたいなことってある?

西久保)
何が変わったかって言ったら、時間に対する価値観っていうか、人の時間も自分の時間も、それが日当というか人工で考えるようになった。自分の働きも人工で考えたりとか、人に動いてもらうときも人工だったり、ちょっとしたお願いごとっていうのもそりゃないに越したことはないとか。

石牧)
実際のところそうやって考えてものづくりしてくと、結構真っ当なものづくりになると思うんだよね。

西久保)
そう、それまで時間に対する価値観っていうか、価値観すらそもそもなかった。

石牧)
単価みたいなものになるんだけど、僕たちは日当で今まで生活してきたから、工務店さんよりもね、大工としての考え方かな。

西久保)
石牧さんはよく、自分は一日いくら稼がなきゃいけないとか、それだけの仕事をしたかどうかとか、そういうことを言うじゃないですか。最初のときは「え?どういうこと?」って、設計が一日いくらとかピンとこないって思っていたけど

石牧)
その感覚が身につけられると、真っ当な金額が出てくると思う。それをケチケチしたらダメだけどね。僕たち職人は自分の手間を売って、それに対しての報酬をもらってるわけだから、手間を削ったら売りものがなくなっちゃうから。

西久保)
合理化、合理化ばっかりしててもダメだね。

石牧)
そう、手間をかけるのが職人の売りものでもあるわけだから、だから手間をかける仕事をめっちゃするじゃん。それで、手間をかける仕事に対して「これ手間かかるからやめよう」とは言わない。だって僕たちは手間をかけることに価値があるんだから。

西久保)
それは絶対言わないよね。でもなんか同時に手間をかけたのに良くならないって分かってることに対しては、石牧さんだけじゃなくてみんな顔にでるもんね。「それ、意味あんの?」みたいな。

石牧)
まあ、そりゃそうですよ。だからそれだけ設計は設計で本気でやってほしいの。

西久保)
だから「ここはこういう意図で、こうしたらよくなるからやってほしい」っていうことをなるべく言うようにしてる。

石牧)
こうしたらよくなるんじゃないかなとか、こういうことを前からチャレンジしてみたかったとか、きっとお客さんが喜んでくれるとか言われたらやれるんだけど、そういうのが何もなくて、どっかの雑誌で見たなんとか風の真似ごとでやってくれって言われたら「それ、良くなるの?」みたいに思っちゃう。多分、足し算足し算でいろんなもの足してって、結果的にごちゃっとして何がいいのか分からないでしょ?って。仕事をしたように見せないで空間をよく見せることはむしろ技術がいることで、手間ももちろんかかるんだよね。見た目派手にごついどーんとした材料を使うより、繊細な材料で仕事する方が難しいんだよ。そういう材料は反りも出るし。それが出来上がるとスッとして見えて、よく見えるし、素敵な空間になるんだけど、そんなに仕事したアピールにはならないっていうね。あと、これね、僕たち大工の感覚からすると、どうしても“仕事”をしちゃうんだよね。

西久保)
あぁ、それ別に、そんなに求めてないけど、、、みたいなこともあったりする。私はトメとかどうでもいいと思うタイプで、したいならしてくれてもいいけどみたいに思っちゃう。

石牧)
家具とかのつくりもの作ってると、若い子たちは仕事をしたいから、すごい手の込んだ組み方してるときはある。でもそれはいいのよ、それで。そういうことをやることも大事だし。やりすぎはいけないと思うけど。うちはみんな社員だから労働時間って制限されてるでしょ。会社だったら当たり前の話だけど、個人でやってる大工さんたちっていうのは、仕事が終わらなかったら遅くまで残業したり、応援も入れたりしてるけど、労働時間が制限されてて、その時間のなかで対価をもらうってことを考えたら、自分が一日にどういう仕事をするかっていうのも見えてくる。それが無駄と思われる仕事でも、自分がやりたいって思うなら、そうじゃない仕事でどれだけ効率化図れるかとか検討すればいい。普通にやったら一日かかる仕事が、うまく段取り組んで時間を短縮してやるとかね。

西久保)
本当にその段取りで全然スピードって変わってくるんだなって。石牧さんもそうなんだけど、特に親方(石牧の父)の仕事を見て「え?そんなに変わってくるの?」っていうくらい早いでしょ。それも石牧建築に来て、すごい感じた。

石牧)
よく昔なんか段取り8割、仕事2割って言ったぐらいだからね。段取りはね、作り手が段取り組めるか組めないかっていうのはすごく大きくて、そこで全然変わるよ。例えば、その仕事をするにはここで図面をもらっても確かに間に合うかもしれないけど、もっと前に図面があったら選択肢が増えて、その選択肢がたくさんある方が最短ルートを通っていけるっていうこと。

西久保)
うん。外注でやってたときと、私が社員として石牧建築にいるっていうのは、やってる内容は一緒のように見えて、全然違うと思う。

石牧)
まあ、遠慮がなくなったていうのはね、あるかもしれない(笑)



西久保)
ないね、お互い(笑)
お互い遠慮がないのは、さっき言ったどっちが損得するとかじゃなくて、結局母体が一緒だからっていうところがまずひとつ大きいのかなって。だから、大工さんと設計士さんで外注関係というかパートナーでやってるところはいっぱいあると思うけど、こういう風に同じ社員でっていうのはなかなかない。

石牧)
外注関係だとね、どっちかが引っ張んないといけないよね。

西久保)
うん。上下の関係になっちゃう。

石牧)
そうね。横並びの関係っていうのが、なかなか難しくって、横並びで掛け合ってって相乗で上がっていく方がイメージも沸くし、全然楽しいと思う。上下関係だと、下になる方が受動的になっちゃう。

西久保)
施工側が受動的になるのはなんとなくイメージできるじゃないですか。でも、作る方も主体性がある方がやっぱりいいものができるんじゃないかなって思うんだけど。

石牧)
作る方が主体性を持ったものづくりをし続ける環境って、結構難しくない?そうするとやっぱり作り手はディテールにしかいけなくなっちゃうんだよね。工務店とか設計士さんと組んで受け身で仕事をしておいて、自社設計のときにそれを活かして主体性をもってやってくとかしていけばいいけど、それも職人ひとりひとりにそこまで浸透するかっていうと、結局その場合も設計者以外にとっては受け身の仕事になるわけだから、職人が主体性をもって提案してくれるような環境づくりっていうのは、やろうと思っても難しいと思う。

西久保)
やりたいとも思ってない人も多いのかな。言われたことをやる、っていうか。

石牧)
まあ、そんなもんでもないと思うけどね。ものづくりしてる人たちは、言われたものをやってるって、そういうモチベーションでは仕事していないよ。そんなモチベーションだったら続かないと思うしね。

西久保)
そうだね。
よくさ、しましま設計室と石牧建築の関係ってなんなの?とか、しましま設計室ってなんなの?みたいな感じのことを聞かれて、私もうまく説明できないな、と思って

石牧)
これね、僕は思うんだけど、工務店の設計部で設計学んだ人と、アトリエ系の設計事務所で設計修行した人とを比べると、多分今独立して設計事務所をやってる方たちもどこかで壁を感じてると思うんだ。言ってみたら僕だって設計士でしょ。実際に設計もしてるし。だけどアトリエ系の設計事務所で修行積んだ人間とは、僕も分からないけど何かが違うと思う。

西久保)
下積みがあるかないか?

石牧)
うん。下積みは大きいと思うね。

西久保)
今のご時世、下積みねえ、、、

石牧)
下積みって、大工にしたって設計士にしたって、昔みたいにブラックな下積みの仕方はないと思うんだ。

西久保)
もっとやりたい!って思わせるように抑える感じ?もっと刻みたい!もっと自分で設計したい!みたいな。

石牧)
うーん、それももちろんあると思うけど、例えばうちに入ったばかりの子たちは、加工場で材の仕分けしたりとか、道具の準備したりとか、最初はなんでこの作業してるかってことが分からなかったとしてもいずれ分かってくるんだよね。若い頃はそれを下積みとか雑用とか思うかもしれないけど、同じことを親方がやると、それは“段取り”って呼ぶんだよ。だから、そういうことが身についてないと、段取りをしなければいけない立場になったときにできないのね。若い頃に経験をしてないから。そういった意味では、下積みっていうのは別に「バカヤロウ、この野郎」みたいなそういう関係性が大事なわけでも、自分が苦労して、こんなこと怒られたとかいう昔話が大事なわけでもなくて、肌にしみついてる「あ!ここ、こうしなきゃいけない」とか「これを先にやっておかなきゃいけない」とかっていう、気づきっていうか、気働きみたいな、そういうのが大事になってくるんじゃないかな。
しましま設計室と他の設計事務所の何が違うんですか?っていうのは、いわゆる設計事務所のスタイルがみんなの中に固定概念としてあるからじゃないのかな?僕は設計事務所も工務店もどういうものかよく分からないから、そもそも垣根がないんだよね。ただ『しましま設計室』っていいじゃん、語呂が(笑)

西久保)
(笑)
私は嬉しいよ。まあ、思いつきで決めた名前だったけど、わりといつまでも残ってくれて。

石牧)
覚えてもらえるしね。単独で石牧建築だけで押さないように「設計はしましま設計室がやってるんだ」って言いたいのは、それだけ設計に力を入れてるよ、ってことを言いたいから。

西久保)
設計と施工が上下の関係じゃなくて、並列の関係なんだよ、っていうことがより明確ではありますね。

石牧)
そうだね、母体が石牧建築だからね。でも子会社でもないしね。外には伝わりにくいのかもしれないけど。

西久保)
大工も社員だしね。

石牧)
そうそう、設計も大工衆も工務店も僕のなかでは全部垣根がないんだ。そもそも。だって僕は大工集団の一員でもあるから。

西久保)
だって、石牧さんもみんなが一人前になったらしましま設計室でって言ってたもんね。

石牧)
うん、そうそう、雇ってもらう。そしたら僕は所員からだよね(笑)

西久保)
下積みからだ(笑)